納棺師を一度やめたからこそ気付けた初心。「ご遺族のためにできることをしてさし上げたい」
公開日:2024-05-30
株式会社花穂で納棺事業部の立ち上げに携わる中田さん。
納棺師に挑戦されたきっかけや、その後のキャリアについてお話を伺いました。
これから納棺師に挑戦したい方だけでなく、納棺師として今後のキャリアに悩む方も必見です。


株式会社花穂 納棺師
中田桃子さん
専門学校を卒業しヘアメイクアップアーティストとして活動後、納棺師の道へ。
納棺事業部の立ち上げメンバーとして、2023年4月に十全社と同じ穴太ホールティングス傘下の株式会社花穂へ入社。



偶然が導いたご縁!?ヘアメイクから納棺の世界へ飛び込んだ中田さんのキャリア

本日はよろしくお願いします。
さっそくですが、中田さんのこれまでのご経歴を教えてください。

中田:ヘアメイクの専門学校を卒業後、ブライダル業界に挑戦し結婚式場に就職しました。
そこで新郎新婦のヘアメイクを担当していました。
その後は地元から東京へ出て舞台のヘアメイクのお仕事をしながら、子供写真館でカメラマンや着付けのお仕事をアルバイト感覚でやっていました。

しばらくすると「ちゃんと就職しないといけないな」という思いが湧いてきたので、そこではじめてキャリアチェンジを検討し始めました。

そんなときに思い出したのが、祖父の葬儀でした。
納棺師さんが実際に納棺を行うところを間近で見て、かなり衝撃を受けたんです。
ヘアメイクの仕事柄「もっとこうしたらいいのに」とか「もっとこうしたいな」と感じながら納棺式に参加していました。
しかし、驚いたことに納棺式が終わった祖父はとてもきれいな姿になっていました。 生前でも見たことがないような穏やかな顔だったんです。

その時に、ヘアメイクと納棺師は全く違うものなんだと強い衝撃を受けました。

転職活動中、頭の片隅にずっとあの日の衝撃が残っていました。
そんな時、十全社とはまた別の会社ですが、偶然納棺師の求人を見つけたんです。
せっかくだから一度面接に行ってみようと思い、応募することにしました。

すると面接中に「お爺様の納棺を担当したのは、もしかしたら当社の納棺師かもしれない」と面接官の方がおっしゃったんです。

すごい偶然ですね。
中田:そうなんです。
「ここでならあの時お世話になった人と一緒に働けるかもしれない」と考え、思い切って納棺師に挑戦しようと決めました。
職業そのものに憧れたというより、先輩に憧れて挑戦した感じです。

なるほど。
転職の際、ご家族の反対はあったのでしょうか。

中田:幸いなことに反対されることはありませんでした。

今思えば祖父の葬儀で納棺式を一緒に見たことが大きかったかな?と思います。
家族からは「世の中のために役立つ仕事なんだし、良いじゃない!」と背中を押してもらいました。

正直なところ、家族からは反対されるかもしれないと思っていたので、予想外に前向きな反応がもらえたことは嬉しかったですね。

そうですよね。
納棺師として働く中で、苦労されたことはありますか。

中田:実は入社前の出来事が一番印象に残っています。

面接後、職場見学をさせていただいたときのことです。
具体的に納棺師の仕事がどんなものかを実際に見て、お互いに問題がないか最終確認をするため現場に伺いました。
ところが、その時の現場は特殊処置と呼ばれる、通常の納棺業務とは異なるハードな現場でした。

こういった場合、通常の納棺業務と比べて損傷の激しいご遺体と対面することになります。
さらに、普段は使用しない特殊な器具を使用するんです。

想像はしていましたが、その現場を目の当たりにして「ああ、これは自分には無理だ」と感じてしまい断ろうと思いました。

入社前に、とてもハードな現場を体験されたんですね。
中田:そうなんです。
ところが断るつもりで事務所に戻ってくると「次はいつ来れる?」と面接官の方に質問されてしまいました。
「ああ…これは断れないな」と思い、腹をくくってそのまま入社を決めました。

不安もありましたがヘアメイクの技術も生かせますし、なにより憧れの人と働けます。
家から距離があるので大変だとは思いましたが、人生の徳を積むと思えば良いと考えました。
まずは5年頑張ってみよう!そう決心をしてその会社に入社しました。

スタートから波乱の展開ですね。
他にはどのような苦労がありましたか。

中田:特にご遺族とのコミュニケーションには苦労しました。
実は納棺師にとって、コミュニケーションはとても重要なスキルなんです。

納棺師として重要なスキルはコミュニケーション力

中田:ブライダル業界でのお客様は新郎新婦なので実際にお話をして「こんなメイクにしましょう」とか「この色を使いましょう」など、意見のすり合わせが可能です。

ところが葬儀や納棺式の場合、故人様とご遺族がお客様になります。
故人様はもうお話ができません。
また意外かもしれませんが、ご遺族も故人様がどんなお化粧や服装が好きだったのかをご存じでないことが多いんです。

ですから納棺師である私たちは、ご遺族や故人様が言葉にできない状況を汲み取る必要があります。
この独特なコミュニケーションの取り方に、最初はかなり戸惑いました。

たとえば、普段ほとんどお化粧をされない故人様がいらっしゃいました。
そのことをうまく汲み取れず、しっかりとお化粧をしてしまったため「こんな風にお化粧をする人じゃなかったから、全部落としてくれ」とご遺族からお叱りをいただいたこともあります。

納棺師は技術も大切ですが、コミュニケーション能力も同じくらい大切なんですね。
中田:そうなんです。
新人納棺師が一番分からなくて、つまずくところだと思います。

職人色が強く、一人で黙々と進めるお仕事だと思われがちですが、ご遺族とのコミュニケーションは納棺師として非常に重要な要素なんです。

やりきったと思っていた納棺師に再挑戦したわけ

続いて、どのような経緯で貴社への入社を決めたのか教えてください。
中田:先ほどの経緯で納棺会社で働き始めたのですが、あっという間に最初の目標であった5年が経っていました。そんな中「ちょっと違うかもしれないな」と思うことが増えてきました。

入社当時は、たくさんの件数をこなして経験値を上げていくことにとてもやりがいを感じていました。
様々なご遺族と関わりあう中で、一生を終えた人を自分の手で綺麗にしてさしあげたり、それによって喜んでいただけることがとにかくやりがいだったんです。

しかし、たくさんの件数をこなすことは、それだけ自分の体に負担をかけていることでもありました。

年間で大体何件くらい担当されていたのでしょうか。
中田:月間で60件前後だったので、年間では720件は担当していたと思います。

月間で60件ですか!一日に3件前後担当していた計算になるのでしょうか……
中田:そうですね、それくらい担当していたと思います。

それだけの件数を担当していると、だんだん初心を忘れてしまうんです。
「あれ?なんでこのお仕事やろうと思ったんだっけ?」と、思うこともありました。

それと同時に多くの件数をこなしたことで、もう納棺師としてはやり切ったかなという思いも出てきました。

ある意味満足してしまったんですね。
中田:そうなんです。
日々様々なご遺族と接しているうちに、毎日達成感を感じられるようになっていました。

こうした感覚は、職人としてゴールを味わったように思えました。
そのせいか、その先を追及することがなくなってしまったんです。

そこでそれまでお世話になった会社を退職して、1年間ゆっくり今後を考える時間を作ることにしたんです。
そのうちに今度は自分が全く経験したことのない仕事で、世の中の役に立つ仕事がしたいと考えるようになりました。

ところが時を同じくして、友人のお父様が亡くなられました。
友人から「葬儀をどうしたらいいか」と相談を受けたので、納棺師として働いていた時にお世話になった十全社を紹介しました。
私が知る限り、十全社が一番熱心に葬儀を行ってくれると思ったからです。

一緒に働かれた経験があるからこそ、分かることかもしれませんね。
中田:そうですね。

葬儀は十全社にお願いしましたが、納棺式は私の後輩納棺師に来てもらいました。
そのときに納棺式を見ながら「やっぱり自分の手で納棺式をして、お父さんを送り出してあげたかったなあ」と思いました。
納棺師としてやり切ったと思っていましたが、実際にはまだまだそんなことなかったんじゃないか、と気がついてしまったんです。

そう思った時、本当にタイミング良く十全社でお世話になっていた営業担当者からご連絡をいただきました。
ちょうど十全社で納棺事業部の内製化を進めようという話があったそうで「もしよければウチにおいでよ」というお誘いだったんです。

本当にタイミングがばっちりですね!
中田:これまでも人生の中でいろいろな偶然が重なって納棺師になりましたが、この時も本当に運命的なものを感じました。

前職のようにたくさんの数をこなすスタイルではなく、一件ごとにじっくりと向き合える点がとても良いと思いました。何よりも経験者として部門の立ち上げに挑戦できるのは魅力的でした。
これまでできなかった自分のやりたいことが実現できるぞ!と思ったらワクワクしてきて「ぜひ一緒にやらせてください」とお伝えし、2023年の4月に入社に至りました。

一度納棺師のお仕事から離れたからこそ「ご遺族のためにできることをしてさし上げたい」という初心を思い出すことができたのではないかなと思います。

運命的な出会いから入社を決められたんですね。
中田:はい、幸運だったと思います。

しかし入社したものの、納棺師の経験しかありません。
葬儀については右も左も分からない状態でしたので、最初の3か月は葬儀について色々勉強しました。
その後7月からは納棺事業部の立ち上げに着手し、納棺式も始めました。

ベテラン納棺師も感謝してもらえることがやりがい!

実際に入社してみて、どんな会社だと感じますか。
中田:多角経営をしている会社だけに、社員の声を取り上げるスピードが早い環境だと思いました。 内製化ひとつにしても、一方ではなく様々な方向を見ていると感じます。 ひとつのことに集中するより、多方面に意識を向けることができるタイプの人が楽しく働ける環境だと思います。

今、特に苦労されていることはありますか。また、貴社だからこそ助かると感じることなどありますか。
中田:そうですね…、今まさに困っているのは、同じ立場の相談者がいないことでしょうか。

たとえばAとBで迷った時に相談したいと思っても、誰かの意見を聞くことができないんです。 前職では同じ立場の人がいましたが、今はまだ納棺事業部の立ち上げ中です。そのため一人で決めることがたくさんあります。

反対に助かっていることは、職種を超えて横のつながりが強固なことですね。
今までは納棺のみをピンポイントで担当する形でしたが、今は担当者と常に情報の共有が可能になりました。

おかげで打ち合わせから葬儀後のアフターサポートまで、一連の流れを確認できます。
これまで見ることができなかったご遺族の感情の変化を、きちんと身近に感じられるようになりました。

これにはすごく助けられています。
先ほどお話したご遺族とのコミュニケーションにたくさん活かされているんですよ。
また、お願いすればご遺族との打ち合わせに同席させていただくこともできるので、とてもありがたいです。

最初の打ち合わせから葬儀後まで、ご遺族の一連の感情の変化を把握できることはこれまで経験できなかったことでした。
故人様をお迎えに伺った時にとても落ち込んでいたご遺族が、葬儀後には晴れ晴れとした顔をされていたりします。
納棺師の仕事をするうえで、すごくモチベーションに繋がりますね。

ありがとうございます。
お仕事をする中で、特にやりがいを感じられることは何でしょうか。

中田:やはりご遺族のためにできる限りのことをしてさしあげられることだと思います。
しかも、誰かのためにしてあげたいと思い行動したことで「ありがとう」と言っていただけるんです。
間違いなくここが一番のやりがいだと思います。

葬儀業界で働いて感じたのですが、ブライダル業界や他の業界で働いているときよりも、「ありがとう」と言っていただける回数が多いのではないかと思うんです。
おそらくマイナスになってしまった気持ちをプラスにすることが葬祭業界の仕事だからだと思います。

はじめのうちは落ち込んでいたり、悲しみの深い人が、葬儀が終わって元気になっている姿を見るとものすごくやりがいを感じます。

今思えば、納棺師の仕事をやめて業界を離れた経験があるからこそ、こうしたやりがいがより強く感じられるようになったのだと思います。

では最後に、今後納棺師を目指す方にアドバイスをください。
中田:納棺師を目指すのであれば、興味を広く持っていただくことがまず重要だと思います。

納棺式の場合、必要となるのは納棺の知識だけに留まりません。
たとえば、ご遺族から突然「チマチョゴリを着せたい」とか「宗教服を着せてほしい」とお願いされることもあります。

私たちが全てお着せ替えをする場合もあれば、ご遺族にお手伝いをお願いする場合もあります。例に挙げたものに限らず様々なお召し物があるので、何を着せてほしいと言われても対応できるくらいの知識の深さが必要だと思っています。

また、知識の深さはお召し物だけに限りません。
どんなメイクをすればよりお顔が綺麗に見えるのかといった技術的なことから、ご遺族の不安を和らげるためにできるコミュニケーション方法など、挙げたらキリがありません。

こうした知識を得るために、好奇心を持つことがとにかく大切だと思います。

ちなみに、私は趣味で養蜂をしています。

養蜂というと、ミツバチを育てることですね。
中田:そうです、ミツバチを育てていますが、きっかけは些細なことでした。 母と「はちみつって美味しいよね」と話をしていたんです。 その時にふと「自分たちでミツバチを育てたら、高いお金を出してはちみつを買う必要がなくなるな」と思いついたんです。

そうしたらおのずと興味が湧いてきて、ミツバチを育てるためには何が必要でどんなことをするのかたくさん調べるようになりました。 実際に養蜂をスタートしてからも、たくさんはちみつを作ってもらうにはどういったお世話が良いのか調べたり、色々と工夫をするようになりました。

やりたいことの結果はひとつですが、結果に至るまでにたくさんの要素が組み合わさっています。
そんな風に納棺式というひとつの式を作り上げるために、たくさんの知識をどん欲に吸収していくことがすごく大切だと思います。

これから納棺師になりたい人はもちろん、葬祭業界に挑戦したい人も、視野を広く持って幅広く、どんどん知識を吸収してほしいです。

編集後記
中田さんのお話は、興味深いものばかりでした。
特に一度納棺のお仕事から離れたからこそやりがいに気が付けたというお話に、共感される方も多いのではないでしょうか。
チャレンジ精神を忘れず、広い視野を持って挑戦を続けることは難しいことですが、インタビュアーもかくありたいと感じました。


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